月明かりの僕たちに
いとう


僕たちが狩りをするのは
生き残るためだったはず
いつのまに
狩りをするために
生きていることになったのだろう
などと僕たちが
思うはずもない
僕たちは今まさに
狩りをしているのだから

夜の月明かりに群れるものたちを
僕たちは息を潜めて待つことなく
むしろ僕たちが月明かりとなって
誘き寄せ、食む
ことなくいつしか
息をすることを忘れたように
それが呼吸だと気づかないうちに
僕たちは満たされているのだ
何を狩ったのかも
思い出せないで
空腹すら
思い出の向こうへ

僕たちの中には
いくつかの悲劇と苦難があったはずだ
それを忘れたとしても
それは血肉となって巡っている
としても
その記憶が閉ざされた夜明けには
僕たちはまた
失ったことを忘れている
としても
生きている、そのことを、
忘れていないのはもはや
何かの呪いのだろう
それは僕たちが忘れてしまった
僕たちが狩ったものの、祈り、が、
僕たちにとっての呪いであることを
忘れてしまっている僕たちへの
警鐘であることすら
僕たちはすでに
僕たちの内部に取り込めていない
のではなく
取り込んでいることを忘れていることそのものが
呪いであることに気づかないことこそが
すでに新たな呪いなのだ


 喪失とは
 失うことではなく
 忘れていることに
 気づかないこと


閉ざされた夜明けに
月明かりは意味をなくし
僕たちこそが忘れられる
失われた僕たちはそこに在って
影を残すが
その影こそが
僕たちの証で
もちろんそれは
すべての祈りに
忘れられている

影を祈るものは
どこにもいない
祈ったことこそが
忘れられるのだから


自由詩 月明かりの僕たちに Copyright いとう 2009-12-16 03:23:06
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