空前スケッチ
黒乃 桜


突然話しかけられたら 心臓が泣いてしまうでしょ
その前に止めておかなくちゃね 大丈夫一人でやれるわ

あなたはきっと私が また迷ってしまうからって言うけど
もうきっとあなたとじゃなくても 歩いていけるわ 躓いたって平気よ

唐突に押しつけた抱擁の糸は ぷつんと途切れたみたいね
周りを顧みずに掘り続けた穴と 真っ黒に染まった爪

きっとあなたが見たら そんな事しなくても良いって言うけど
あなたより色の落ちた目を 見たことなんて無いのよ だって

絡めた指は細いから 凍えそうになってしまったんでしょ
マネキンみたいに笑って 喚いて叫んで掻き毟っても

見上げた空は遠いから 私はバッタにでもなったようだわ
このまま無邪気な少年に 手足もぎ取られたって良いよね

動けなくなっても私だよね 知ってるでしょ
あなたはまだ勿体ないと その手から離そうとしないのかな

失ってしまった薬指は オルゴールの中で沈んでく
大して愉快でもないメロディーに乗せて 妖精は踊るの

そしてあなたは
少し惜しそうに目を細めるんだわ

そして誰よりもを 唱え出すんだわ
安っぽい言葉で 私も

もしも与えられたら 涙腺が壊れちゃうでしょ
その前に枯れさせなくちゃね 大丈夫一人でも平気よ

二人で悲しみを半分こ なんて 知ったように言わないでよ
半分にしてもあなたは それをもう食べられないでしょ

愛とかじゃなくて恥なの
そして深い哀なの

さよならじゃ安っぽすぎるよ
ほら 私の銀は何も言わずに あなたの白に

おやすみ
書き殴るんでしょう


自由詩 空前スケッチ Copyright 黒乃 桜 2009-11-27 16:03:55
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