青い鳥 
服部 剛

夜行列車を降りた旅先の富山で 
朝から無人のグランドに行き 
雪化粧した立山連峰に目を細めながら 
お兄さんと、キャッチボールをした。 

玄関を開いて部屋に入ると 
春に生まれたばかりの甥っ子が 
ママに凭れて立ちながら 
僕に向かって、微笑んだ。

7才になる姪っ子は 
ヴァイオリンの
ミニコンサートを開き 
エーデルワイスを、奏でてくれた。

姉ちゃんがこんがり焼いた 
柔らかい豚の生姜焼きを
皆で食べた夕餉は 
不思議なほどに、美味かった。 


  * 


鎌倉へ帰る前夜 
近所の焼き鳥屋で飲みつつ 
お兄さんに、誰にも言えない 
身の上話を、打ち明けた 

鎌倉へ帰る日 
富山の山に水の湧く霊場でいのり 
近くの蕎麦屋で 
姉ちゃんが言えずにいた 
密かな想いを、弟に打ち明けた 

今年の1月 
新たないのちを身篭っていた 
姉ちゃんは、大好きだった 
祖母の最期に、会えなかった。 

(もう一度、思いきり
 お婆ちゃんを抱き締めたかったのに・・・) 

思わず姉の声は、震え 
黙って弟は、頷いた 


旅の終わりのローカル駅で 
改札に立ち 
右に7才の姪っ子の小さい手を取り 
胸に0才の甥っ子を抱く姉ちゃんに 

  じゃあまた 

と軽く手を上げた時 
弟をじっと見る姉の瞳は少し、揺れ 
声を出さずに(ありがとう)と言っていた 


  * 


早いもので 
過ぎてしまえば夢のような 
旅のひと時から1週間 

今頃、僕と遊んでばかりいた 
姪っ子の机の上には 
おじさんの僕が渡した小遣いで買った 
チルチル・ミチルが主人公の 
「青い鳥」の絵本が置かれている 

姉ちゃん、いろいろ悩みもある 
家族ではあったけど 

幼かったあの頃にはもう2度と 
戻ることもないけど 

おじさんになった僕は今 
瞳を閉じれば、見えるんだ。 

僕等の胸にずっと消えないあの頃の 
5人の笑顔で囲んだ食卓の上に 
ゆっくりと羽ばたきながら 
舞い降りて来る 
あの 
青い鳥が 








自由詩 青い鳥  Copyright 服部 剛 2009-11-16 21:23:59
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