腐ったツナサンド
虹村 凌

テーブルの上にある花瓶に刺さった幾本かの薔薇の花が腐って姿を見ているのが辛い
元々は小道具でしかなかったとしても
毎日水を変えて茎を切っても日に日に萎れ腐っていく花を見るのは辛い
赤かった花びらは茶色くなって
ただ俯いている様にしか見えない

だから俺は花を買う事が無いんだと
柔らかいフィルターのキャメルを吸いながら

枯れない花なんて無いけど
誰に送るにしたっていずれ枯れて行くなら
最初からその姿を見ない方がいいんだ

スターバックスのコーヒーを一気に流し込む

灰皿の中でうずくまっている固いチャコールフィルターのセブンスターズを拾って
実家の壁に引っかかっているドライフラワーになった薔薇を思い出していた
まるでミイラみたいな色になってぶら下がっているそいつらを
何故急にあのドライフラワーを思い出したのかはわからない
ただ目の前のキャラメルマキアートを飲みたくなくなって
隣の席の奴にくれてやろうかと考えていたら
そいつが薔薇のタトゥーをしていて
アパートのテーブルに飾ってある薔薇が腐って行くのが辛いとか
そんな事を唐突に思い出したんだ
あのドライフラワーは今もぶら下がっているんだろうか


100ドル札が全面にプリントされたキラキラしたパーカーを羽織って
何時かあの映画のチョウユンファみたいに
100ドル札に火をつけて煙草を吸ってみたいと思うけれど
実際は安いライターで柔らかいフィルターのキャメルに火をつけながら
フィルターまで溶けかかったセブンスターズを踏みにじる

薄暗い歩道を歩きながら
自分の国が腐っていく様を何故か思い描く

弱り腐って行く自分の祖国を見ているのは嫌だけど
腐ってるのは冷蔵庫の中にあるツナサンドも俺の目も同じだから
もうどうしようもねぇんじゃねぇかな
上手く言えないけど嫌なもんは嫌さ
だけどこの町だってこの国だって
俺の財布の中の金も
さっき飲んだコーヒーも
今吸ってる煙草だって
もう腐りきってるじゃねぇか
そうだろう?
俺の脳みそももうとっくに腐りきってるんだ

俺はポケットの中のナイフを握りしめて
遠く離れた両親に小さな声で謝った



自由詩 腐ったツナサンド Copyright 虹村 凌 2009-11-16 15:33:29縦
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