ひび割れた琥珀
白糸雅樹

キャベツ畑に雨がざわめく夜更けにひたひたと
歩める老いた木こりのひび割れた手のひらを染める
煙草のヤニは深く沈殿し
猫目石のように闇の中のわずかな光を集める

暖炉にかかったスープ鍋はふつふつと
爆ぜる薪とひそやかに雨を喜ぶ鈴虫との短三和音を奏でて
煙草の煙はゆらゆらとト音記号を描き
瓦斯灯が若き日の輝きすぎた太陽の残影をしっとりと床に落とす

ここを訪なうものの姿は絶えてなく
等しく分け与えられる祈りのように彼は傅く
光と闇との融合が行われる

祭壇の前で赦しを請うことはない−なぜならば
彼はただ彼として存在しそれ以上でもそれ以下でもなく
ひび割れた琥珀を見つめつつ刻を終えるのだから

                   2009.11.11
                   奇数行:白糸雅樹  偶数行:しろう


自由詩 ひび割れた琥珀 Copyright 白糸雅樹 2009-11-11 22:16:45
notebook Home 戻る