静けさが降る
かんな



家に静けさが降っているとき
五人の家族の顔は
お互いそっぽを向いている気がする
わたしはひとりで居間にいて
天気が悪いからって
掃除機をかけようかどうか迷っている

母は体調が悪いと言って
いや言うこともしなくて
朝食を済ますと
すぐに部屋に引っ込んでしまった
父は仕事も大詰めらしく
少し険しい顔をして
書類と向き合ってペンを握っている

洗濯物を抱えながら
奥の居間を通り過ぎる
祖父と祖母がテレビを見ていた
天気悪いねえ
そう声をかける
きっと祖父と祖母も
農作業に行こうかどうか迷っている
雨はよくない

家の住人は最近二人増えた
母が病院から退院し
二年半ぶりのことで
そしてわたしがアパートを引き払って戻った
それまでは父と祖父と祖母
父はいつも正面を向いている
そんな人だから
祖父と祖母はきっと
眩しくて向き合えなかったんだろう
そっぽを向くのが得意だから

そうやって二人増えて
家にほんの少しだけ明るさが戻った
ようにおもえている
軋んでいる柱の音も
なめらかなメロディに聞こえる
それでもたまにこうやって
家には静けさが降っているときがある
いま家族は
どこを向いているんだろう

そんなときわたしは台所に立つ
大してうまい料理が作れるわけではない
それでも時計の針が十二時をさせば
台所には家族があつまる
五人とも大してうまくない料理をはさんで向き合う
でもそんな瞬間がわたしにはあたたかい
だから雨を眺めながら献立を考える

静けさが止むのを待ちながら



自由詩 静けさが降る Copyright かんな 2009-11-11 12:24:44
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