水の遍歴
木立 悟








木漏れ陽や影が
昼の星を見ている
羽は
羽から目をそらす


家の裏の沼には
家が沈んでいる
建つものもなく
枠は増える


   翳りが
   異なるほうを向いています
   今 元に戻りました
   でも 正しさとは何か
   わかるまでには至りません


空の奥の空
空を秘す空
岩と海と樹に響き
野へ打ち寄せる闇となるもの


二重ふたえの雨
二重の笑み
そそぎ そそがれ
離れる光


   やわらかな やわらかな爪です
   指の内側
   指の外側の指のように
   見えないかたちを
   常につかみつづけている
   やわらかさに折れそうな
   三日月たちです


青 青と白
塗り重ねながら 変わりゆくもの
標でありながら 導かれるもの
さらに青へ さらに白へ


何もない器に
落ちては光り
響きは消える
雨は 雨にぬるらんでゆく


   手のひらは
   たくさんの光を見てきました
   もう終わりが近いのかもしれません
   いえ これからが
   はじまりなのでしょう
   まだあんなにも
   こぼしてばかりいるのですから


夜の青 夜の虹
空の地図を 火とともに折りたたみ
水はひとり
野の闇間をすぎてゆく



























自由詩 水の遍歴 Copyright 木立 悟 2009-11-10 16:06:55
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