食物月
縞田みやぎ




花さえ見れればと
母は言う
明日の食べる分だけと
母は言う
めだかを増やすのだと
母は言う

自然に うまれたのだから

ベランダにありったけの鉢を並べ
全て 上を向かせている
これから秋が来るのだが 青く
摘まれる枝をもたない
これから冬が来るのだが 青く
やわらかな発芽をする



ターシャは結局 つくりものだった
展覧会に こぎれいにしたご婦人がたが集い
いいわよね すてきなのよねえ
と微笑みあうことが もうぜんたい
いずくて いずくてたまらなかった
らしい
フィクションなのよ ぜんたい 結局
よく稼いだんじゃないの あれは
がっかりする ああ もう
がっかりする

私は何を見にいったのか と
口のはたを上げる
私はベランダでいいわ
分というものが あるでしょう
あの手すりからは いっとうきれいに 花火が見える
あすこに球場と その先に 海があるの
日も いちにち よく当たる

食べる分だけでいい
足しになる分だけでいい

母よ

好きに生きさせてやりたい
私の いのちなのだから

おしまいまでが すべて
おだやかにふくらむ 芽吹きの季節だ
めだかは たまごを
産んだ 




母よ
得るために育てるということは
ひとつも
自然なところがないのだ

すんなりと せすじを伸ばしたまま
空が
やせていくのを見ている

灰をまき かえさなくてはならない
これから
約束のない季節が来るのだ
母よ




自由詩 食物月 Copyright 縞田みやぎ 2009-11-01 02:35:41
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