秋晴れ、バリトンサックス
たもつ


僕の必殺技のことを奴らは知らないでしょう
とても細いところで空ばかり見上げている奴らですから
ああ、高い高いですねえ
と、その間に電話をかける仕事は朝飯前です
朝飯前なのでまだ歯も磨いていませんが
発音も鮮やかにつるつるの受話器に語りかけます
つるつるなのは仕方の無いことですね
受話器はかつて生きていたものたちの頭蓋骨だ、と言っていました
試しに自分の皮膚をなぞるとざらざら音がします
奴らはそんな僕をサメハダと罵るばかりです
そのために殺されたサメがいるというのなら
やはり奴らは敵に違いありません
だからといってサメに恩義があるわけでもないのです
そのあたりは根回しとか腹芸とかそんな類の、大人は汚い
と言うのは寧ろ子供ではなく大人の方なのでしょう
秋ですねえ
秋ですよ
そういうわけですから奴らに必殺技を披露するのも
近からずとも遠からず、といったところでしょうか
ただただありていに言えば
受話器の光沢が純度を増しいる間に
食卓の上で着々と朝食は進行しています





自由詩 秋晴れ、バリトンサックス Copyright たもつ 2004-09-16 14:14:32
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