繁る私
笠原 ちひろ

あのときあいつはああ言った

あのときあの男はあたしを笑った

あのときあのひとは助けてくれなかった

あのときやつらは追い詰めた

あの言葉、あの態度、あの時あの時あの時あの時あの時………


嫌な臭いのする
ヘドロのような感情を
わたしはわざわざひっぱりだして
ひとつひとつ
丁寧に感じてみる


うん
わたしは怒っていたんだ
憎んでいたんだ
妬んでいたんだ
悲しんでいたんだ
傷ついていたんだ


日なたにちょこんと座って
今さらながらそれに気づき
のびのびと

怒りきってみる
憎みきってみる
妬みきってみる
悲しみきってみる
傷つききってみる


ひとつひとつ
ひきずりだしては
陽にさらす


ヘドロを汲み上げ
平らにならし
丁寧に丁寧に
ひかりにさらす


何度も何度も
繰り返す



わたしは最近よく眠る



目覚めるたび
ヘドロがさらさらの土に変わっていく

少しずつ乾き
土に変わってゆく



土よ

わたしの土よ


きっとここには
たっぷりと滋養が含まれてる


もくもくと黒い
肥えた土に
わたしはにんまりと笑う



ああ、太陽のいい匂い!


ひとつかみして
ぱぁっと空に投げる




土よ


わたしの土よ



もっと黒ぐろと肥え太れ



まずはミミズが来るだろう
クモやナメクジもいるだろう


そんな不細工な生き物たち

わたしの土を
耕せ 耕せ




わたしはここから繁ってゆく


自由詩 繁る私 Copyright 笠原 ちひろ 2009-10-17 07:12:32
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