1989年の少年に
都志雄

(Dear, ol' boy)

   
壁は鋼鉄ではなかった。

広場の祈りは食いちぎられた。

トーキョーは宴の翌朝に蒼ざめ、

ヒトの羽が突然変異を始め、

奔流となった飢えた想念たちは光の蝗になる。

それからのこと。



おれたちは
何におびえていた?

裏切り者の鎮魂歌と
塗りたくられたぎらつきの間で


この夏もまた
記号の汗なめながらおれたちは

機械仕掛けの神殿から立ちのぼる
道化たちのうすら笑いと
沈黙の凝視を浴びている


仮面舞踏会の衣装のままに
反逆の天使たちは素顔を隠し続け
川はお構いなし
神々もお構いなし
半か丁かのコンビニ王朝
今年平成21年。


それで?
それで何がどうなった?
土くれも知らぬバベルの塔から
わざとらしい雲へと手を伸ばすだけの
おれたちの魂のこのザマは…


おれたちの三軍はどこだ?

おれたちの脳幹は?

脊髄は?

男根は?

毒虫は?

「太陽と一緒になった海」は?


一夜限りのくじ引き閣下たちには弔鐘を
香水と鮮血の温水プールからおれたちは上がる
そして川を沸き立たせよ


ああ
遥かなるカシミール!
聞こえるか?
蒼天を昇る螺旋階段の果ては
真っすぐに燃えているか?

フェゴ諸島!
荒れ狂う南氷洋の風で
ニュー・ジャージーを孕ませよ!


宇宙論レイアウト」には鉈を、
おれたちの「宇宙論レイアウト」は、
ついに
拒否セヨ、受容セヨ、ナニモカモ!

コンビナートの膿にくすんだ水平線が
将門マサカド最期の日の朝になるまで

張りつめた3月の鏡が沸きたち
闇の底から幾千万の音声おんじょうの泉があふれ出るまで


崩れ去った塔の跡で泣く少女よ

凍てつく造成地で震える父親よ

下半身を失った歩兵よ

おれたちは眠らない

マトリョーシカの底はおれたちの信じるとおりの姿になるのだから

積み上がった瓦礫の上
ぼろきれのように
叫び、とび跳ね
この新たな世紀の明くる日も、明くる日も、
そのまた明くる日も
虚空に手を突き上げろ



「敗者たちのために!」



自由詩 1989年の少年に Copyright 都志雄 2009-10-17 02:14:39縦
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