夜風に吠える
佐々宝砂

おれが人間味を失いはじめる
二日月の一日
おれは昼行性のホモ・サピエンスらしく
眠ろうと試みている

もうすぐ明け方になるらしい
九月なかば
エアコンのない部屋は
こんな時間にもまだまだ蒸し暑く
窓を開ければ生ぬるい夜風
薄明るい
それとも薄暗い
どちらともつかぬ空に二日月
星よりも頼りなげに
夜風にさえ揺れるようで

しかしそんなかぼそい月ですら
おれをあやつるのだ
月あるゆえに
おれのなかの3%の獣性が
吠えたがり
おれのなかの97%の人間性が
それを押しとどめ

のをわある とをわある と
吠える犬は人である と
月に吠えた詩人は言ったが
おれはなんと吠えたらいいのか

今夜おれは月に吠えたりはしない
少なくとも二日月に吠えはしない
それでもおれは
ほんのすこしだけ遠吠えをしようと思う

月になど吠えない
夜風に吠えたい
応えるものなどないだろうが
そうだよ おれは変にロマンティストだよ
夜風よ おれの切ない遠吠えを
どこかとおくに伝えてくれ
3%だけ狼に変身した
おれの情けない遠吠えを


自由詩 夜風に吠える Copyright 佐々宝砂 2004-09-15 01:33:45
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