家と季節
小原あき

玄関は春です
別れと出会いが
毎日
飽きることなく
繰り返されるから
わたしは
いつでも花を飾ります
薄紅色の花が
一番似合うと思います



浴室は梅雨です
温かい雨が降ると
あっという間に浴室は
蒸気で満たされます
流れた雨は
わたしたちの
疲れや悲しみを
連れて海へ向かいます



物干場は夏です
太陽の一番
長く当たる場所です
時々
洗濯物が羨ましくなって
わたしも混ぜてもらいます
ひなたぼっこをしたわたしは
青々と繁る
草花のように
元気になります



トイレは秋です
静かな場所での
読書は
物語を広げてくれます
自分以外は
入室禁止です
ただ、ときおり
金木犀の香りが
覗きに来るだけです



寝室は冬です
一日の終わりに
身体を預ける
大切な場所です
わたしは
熊の冬眠を想います
起きたら春です
準備万端で迎えられるように
大事にしつらえられた
冬なのです





自由詩 家と季節 Copyright 小原あき 2009-10-08 15:57:56縦
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