こもりつのる
佐々木妖精

きみはいわばかもしかだから、1Rの僕には名付けられないんだ
知りもしなかったあなたとわたしが抱き寄せていた枕を想い 壁へ囁いてみる

目が二つしかないから見えないんだけれど
総人口分の1ぐらいの確率で 当事者だったらごめんなさいね
通り魔にでも刺されたと 歯を食いしばって忘れてください
手当てぐらいはしますけど 傷痕ぐらいは堪えてください

トイレにとってウォシュレットが革新的だったと気付くのは、
驚くべき水圧が、弾けながら各々の形へかえる時で。

どうしているのかとメールがきて
こうしているのだと答える時、笑われるか怒られるか気になります。
触れられるか引っ込むか。
殴られるかくすぐられるかハラハラと、こうして自室に溜まります。

我々が水だというような
わたしの事実は新鮮だった
きみにも見えるだろうか
蛇口という蛇口から覗く潤みが
排水溝でしばしばするぬかるみや
ぺたぺたした掌や緩やかなかたまりが
水が流れ落ちはにかむのを聞く時
見えるだろうか けしてとけることのない窓から
身をかがめる光のまとまりが
分かるだろうか
誰も起こすことのない細かな震えが
えくぼにもしわにも残る
たしかな痕跡が きみにも
聞こえるだろうか 息を吸い吐く時
それぞれの部屋からこぼれる音が
傷が癒えたら帰るといい
きみのにおいのする場所へ


自由詩 こもりつのる Copyright 佐々木妖精 2009-10-05 21:21:19
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