蚊をやっつけながら
吉原 麻
さみしいなと思った途端に寂しくなくなった
それというのは自分でもわけがわからなくて
たとえていうなら水族館に行ったことが無いとか
煙草の火をつける方じゃない方に火をつけたとか
手帳に挟むペンがなんでピンク色なのだろうかとか
あと少し背が高ければ電車の吊り革に掴まれたとか
Tシャツから透ける下着の色が黒でちょっと驚いたりとか
2ヶ月連絡をとっていない恋人であるはずの人のこととか
きっとそういうくだらないことが多すぎて忘れたんじゃないか
でも自分には大事なこともあったりして(決して全部ではない)
そういうことだって分かってくれないとつらいなあと思う
コンタクト本当は2週間で新しいのにしなきゃと思うけど
半年使っていても異変が起こらないから使いつづける
ピアノはもう2年弾いていないけどきっとまだ弾ける
実はタンスの中に業務用コンドームが隠してある
トイレットペーパーならダブルで切り取り線ナシ
この部屋にきてからクーラーは使わなくなった
向かいの家は新婚さんらしくいつもにぎやかだ
ただその賑やかさはときに自分を苛立たせる
けれど寛大な自分はなにを思うわけでもない
折り畳み傘のカバーをいつもなくす
使いかけの消しゴムがいくつもある
3つある時計は皆違う時刻だ
洗濯ものをとりこまなければ
洗濯バサミが無いから
今度まとめて買おうか
しかしその前に
あそこのあれを
こうしなくては