終わる世界
e.mei



「つよいかぜのうしろでうまれたちいさなあわがいます。
 あのこはけさそらへとのぼっていくゆめをみたそうです。」


 きえていくあわをとおくにみながらのぼってゆくのです


 生きているあいだにどうかこのせかいを崩して下さい
 少女は名前を喪ったあと人形の背中に凭れながら呟いた
 少女はこれから終わってしまったせかいいちめんに
 あとがきを書かなくてはならない
 僕はきっと星のかずを数えながら自分の名前を忘れてしまうまで
 此処にいるのだろう
 音のないせかいに光がひろがっていく夢を見たのだけど
 すでに存在を失った何ものかの声がきらきら光っていた


(陽のない泉に流れているあおいろの名前をした誰かさん、
 あなたは生きるという行為を何よりも嫌っていますね。
 少女はとても元気ですよ。
 せかいがなくなるまであの子はあとがきを書きますから、
 双子のいなくなった双子座の宮で眠っていてください。
 目を覚ますまでにはきっと明日をむかえていますから。)


 ひかりがない


    いつの間にか雨が忘れていった光が消えていた
    僕が首からぶらさげていたあの子の名前もなくなって
    またひとつせかいの足音がとおくなってしまった


 人形の右足は砂にさらわれて暗いところに消えてしまう
 時計台に立ったかぜが三度目のあくびをするのを待って
 時間どおりにはじめる
 約束されたせかいの結末を
 下から上へ
 喉から唇へ
 親から子へ
 あの子の終わりを決める為の合図を僕は待っている


 ちいさなあわは露の降りかかった小さな木々の中から空へと
 のぼってゆく
 僕が少女の横顔をながめると
 少女はせかいの夢をみていた


自由詩 終わる世界 Copyright e.mei 2009-09-14 13:49:55
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