特別な朝
石川和広

冷たい水やなあ

弟は、云うので、ぼくは

この辺りに、きっと井戸があるんじゃないかと思った

冷たいなあ
弟の赤い頬を見て、そういった

鋭い針を、ノドに刺しこまれるように、鳥は鳴いたのを
ぼくが聞いたとき

蛇口は光ってぼくの頬がひくつき、今日は、特別な朝だと思った

ひかりが山を越えて、影が歩き出して、ぼくは、影に引きずられそうになった


     特別な朝
     歪みながら、美しい生き物を
     青く焼く朝陽


月がまだ見えるなとぼく

たぶん、もうすぐ消えるで
なんか兄ちゃん、顔青いで
寒いから、もう、中、入ろ


ふたりは、走った
中に入った

息、苦しいけど誰にもいわない


覚えている、あの朝、井戸のこと思ったこと
ぼくは、あの時から
なんの流れに乗ったのか

地下水脈

弟は、今日も、絵筆を走らせる

ぼくはどんな天気の日にも
中空に
三叉に走る傷が見える


自由詩 特別な朝 Copyright 石川和広 2004-09-11 19:53:17
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