高度文明
ぽえむ君

高度文明
交差点の真ん中で一人の男が倒れた
風邪などによる体調不良ではなく
とりわけ身体に障害をもっていたわけでもなかった
彼は早い段階から
交差点に一台の車が走ってくるのに気がついていた
それでも
彼はまったく動けなくなってしまった
彼は身体を動かす意志をもっていた
それでも
彼はまったく動けなくなった
もはや彼は意思と身体が切り離された
それだけではない
彼は交差点という社会からも取り残された
彼はただ目だけを開いて
どんよりとした空を見つめるよりほかなかった
走ってきた車が彼のぎりぎりのところで止まった

高度文明
交差点に向かって一人の男が車を運転していた
決められている速度を超えて走っているわけではなく
とりわけ運転以外のことを考えているわけでもなかった
彼は早い段階から
交差点で一人の男が倒れているのに気がついた
それでも
彼は走ることをやめなかった
それは信号機の色が青だったからだった
進むことを許可された社会規則に従おうとした
彼はまったく動けなくなってしまった
彼は車を止める意志をもっていた
それでも
彼はまったく動けなくなった
もはや彼は意思と身体が切り離された
それだけではない
彼は交差点という社会と葛藤を起こした
彼はただ目だけを開いて
どんよりとした空を見つめながら
原始古来の人間の本能に従う行動を起こした
彼はようやく倒れている男の人の前で車を止めた

高度文明
交差点で信号待ちをしている一人の男がいた
信号が青になり
彼は静かに交差点を渡り始めた
交差点の真ん中で
前に歩いている男の人が急に倒れたのに気がついた
声をかけようとしたが
まもなく信号機の色が赤に変わることを予想して
彼はそのまま黙って渡り続けた
彼は倒れている男の人を交差点に残して
そのまま渡り終えた
振り向くと
交差点の真ん中に男の人が静かに倒れていた
一台の車が男の人の前に止まるまで
ただじっと見ているだけだった
どんよりとした空の中で
交差点を渡るときから
自分の手に携帯電話を握っていることに
彼はようやく気がついた


自由詩 高度文明 Copyright ぽえむ君 2009-09-03 00:48:09
notebook Home 戻る  過去