安曇野
銀猫

海より遠い、
安曇野を思う
穂高の山々を
わさび田の清流を
あるいは
ただその空を思う


閉め切った窓の硝子に反射する、
ピアノ曲に誘われ
ふっと解けた封印は
気付けばとっくに色褪せて
その内側に何を凍らせていたのか
よく覚えてさえいなかった

きっとわたしのことだから
だれかの思い出が
さびしい夜にはしゃがないよう、
無かったことにしたのだろう
めぐった月日は今日になって
いとしさに眩暈がする

列車を乗り継いで行ったことはない
地図を買った覚えも無い
ただこの旋律が
わたしをのせて安曇野へ流れる


海より遠い、
安曇野の空が僅かに切り取られ
ここへ落ちてきた

ただその空を思う





自由詩 安曇野 Copyright 銀猫 2009-09-01 22:01:52縦
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