えれえるえろてかえろていく
aidanico

えれえるえろてかえろていく

子は鎹親のこころ子知らされず親知らず抜かされずおずおずと出された鉢に手を叩かれて蝿に集られて附けられず続けられず告げられず悩めず出あわず生み出されずなにもつくらず営まず吾らはただ地上の夢を見ることも許されず眠りに就けられない運命を享受してゆくことはとても自然な成り行きだったのである




どこかに打ち捨てきた、ながいながい眠りに、何度か肩を叩かれていたようで、まぶたも、肩も、肢も、重くてだるかった。灰色のカップにマーカーで大きくバツ印をつける。床に投げ出された革のベルトは合わせの部分のメッキが大分剥げていて、使い込まれたというよりも乱雑に扱った結果のだらしない状態であった。文庫本が散乱していて、読みかけのものが幾つも栞が途中で挟まれたまま散らばっている。神経質人間なら気になるであろうカバーの帯も、もうぼろぼろで千切れているものすらあった。山積みのCDはちいさな瑕が無数にあって、もう半年も前から聞いていないものもある。どうにも無精である。自覚があるだけまだましなほうだ、と言い聞かせる。


楽屋

長い付け睫毛を、もう三枚も目尻に重ねているので、糊の乾くのがずいぶんと遅い。まだ真夏なので、毛皮の上着は買ったものの、着るには幾分早すぎる気温である。せめて目尻に重たさを、爪には深みのある沼のような焦げ茶色を。幾つもの白熱灯がガヤガヤと音を立てんばかりに鏡台を賑やかに覆っている。今日も脚は時化ている。行き交う靴の音がウェイターの男のそればかりである。色褪せた薄い布切れがぼろの階段をを取り繕うように囲っている舞台よりは、よっぽど此方の方が賑やかだろう。ショウは始まる様子はない。糊が乾いてわたしはやっと自由に瞬きが出来る。靴の踵を鳴らす。それだけで音楽は流れ出す。


自由詩 えれえるえろてかえろていく Copyright aidanico 2009-08-25 20:27:19
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