アナフラニール
e.mei


頬がストロベリィジャムの女の子が生まれた日にはたしか
僕は君とあたらしい世界について話していた


その日が何曜日かなんてのは僕たちにはどうでも良くて
クリィムを混ぜている水車を見るとその先には
誰がつくったのかお菓子で組み立てられた家がたっていた
僕と君にとって今日と云う日は特別何も変わりのない一日で
ストロベリィジャムの女の子とは何の関係もない
僕たちはただ
現在の世界の不満を口にしながらアイスクリィムショップに行った
そして君がチョコチップのアイスクリィムを買ったあと
僕はチョコミントのアイスクリィムを買って
その店にいた少女が僕たちの横を抜けて店の外に出ると
星の子供は永い夢を視ようと目を閉じた


前の世界からあたらしい世界に移った際に上昇を始めた水位は
今もなお上昇を続けるばかりで
いつかは此処も水のなかと呟いたのはどちらだったのか
僕は覚えていない
僕と君はこれと言って嬉しい記憶もなく
楽しい記憶もないアイスクリィムショップで少しのあいだ
お互いの記憶を重ね合っていた
夏のあいだに終わってしまった世界で君が
淡いピンク色した蝶々のまぼろしを視たことがあったのなら
ようすいに沈んでいった女よりも少しだけ多いチョコレイトが君へ
話しかけてくるだろう


ばいばいと言ってはいけなかったんだよと言ってから君は
その言葉自体つくられるべきではなかったのにと続けた
川を静かに流れているのはブルー
僕たちはそれ以降何も言わずに上昇を続ける青を眺めていた


閉鎖されたアンタレスの観測所が遠くにぼんやり見えていて
空では季節はずれの蠍が心臓をさがしているのだけれど
覚えているだろうか
君が初めてアンタレスの観測所から空を見上げたあの日のことを
あの時に泣きながら言った君の言葉は謝罪の言葉だったのだと
あたらしい世界になってから気付いた


ソーダによって洗浄された世界に生まれた
ストロベリィジャムの頬をした女の子
降ってくる祝福の言葉を受け入れる彼女のジャムは蠍の心臓より
朱い色をしている


自由詩 アナフラニール Copyright e.mei 2009-08-22 20:06:17
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