そこに当てはまっていく、そのために
霜天

散歩の途中で
くしゃみをすると
塀の向こうから犬に見つめられて、困った
立ち止まって見つめ合ってみるけれど
悪いことをした
わけではなく

少しだけ難しいことを
難しく考えてしまうから
道は
目の前でも背後でも足元でも
こんがらかってしまうのだ
簡単なはずの公式で
複雑な図形を組み立てている
頭の
余白


散歩道は
秋まじりで
くしゃみをしている
少しの隙間に
見知らぬ場所へ出てしまった
ポケット
の中の
小さく畳んだ地図は
しわだらけでよく見えないので
どうしよう
と思う前に
右に折れてみる

知らない空の
薄く積み重なったビルにも
うまく交じり合っていく呼吸
少しは歩き慣れた
気もする深い大通り
自然と
そこに
当てはまっていく
そのために
明日はあの犬の前で
くしゃみをしないでみよう



大して
複雑でもないのに
複雑にしている僕等を
驚いた様子の
犬の両目が
じっと
見ている


自由詩 そこに当てはまっていく、そのために Copyright 霜天 2004-09-07 02:27:34
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