水位の上昇
e.mei



わたしにはわたしが見えて、わたしはわたしに会いたかったのに母はわたしに会わせてはくれないどころかわたしには狐がとり憑いたのだと言います
わたしはわたしに会いたいだけなのに、です
わたしが向こうに行くとわたしの足もつられて歩きだします こんにちは 今日は雨です あのわたしが傘をささないからわたしも傘はささない
これは何の罰ゲームだろう
涙が頬を伝って流れ落ちてきた あのわたしが泣いているのだろう わたしもつらいよ わたしもだよ
泣きながらわたしはビルのなかに入ったのでわたしも泣きながらビルに入る
おとこのからだ
わたしは泣きながらおとこの頬を撫でていた 悲しいね 悲しいんだね おとこのからだの足からは樹がはえていてビルの天井からは見えなくなっていた わたしは驚かない 知っているのでしょう わたしのことだもの わたしのわたしのこと


(でもわたしの知らないわたしがいてもおかしくないのかもしれない あなたがほんとうはわたしでわたしが他の何か 何かといえば何か 狐? まさか)


わたしのような色をした水が、部屋に流れている どんな色って、わたしのような色よ 座りましょう わたしの部屋はわたしでいっぱいなのだけれどわたしはやはりわたしを待っていた 天気予報は雨 変わらずに外では誰かが降り続けている 水曜日にはわたしはまるで何もやることがないような振りをして、いつもよりたくさんのわたしをみせた わたし思ってないよ 救ってあげようだなんて思ってもいない
電気をつけなさい 母の声がする歩いてくる母に踏まれるわたし わたしはそんなにいい気がしない
つけるわよ 母は感情を剥き出した獣のような声で呟いた おはよう 何よ何もないじゃない 母はたくさんのわたしにまとわりつかれながら部屋を出ていった ひとりのわたしが眠そうな顔でわたしを見つめる
わたしを 見つめる


(わたしはわたしに話しかける あなたは少し違う あなたはわたし? わたしはあなた? わたしとはもう付き合いが長いのだろうか 彼女はわたしをもっていた)


わたしはわたしの思い出の断片を集めることをしてはいけない わたしはわたしと一般的な話題をしてはいけない 三日後にはわたしはまた増殖しているかもしれない わたしは上をむきただ待ち続ける 上昇してくるわたしたちを
それまでは何も言わない
ラストシーンは自然にやってくるものだから


自由詩 水位の上昇 Copyright e.mei 2009-07-26 15:35:56
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