ようすいの丘
e.mei




 世界はいつも濡れていて 陽射しが人々を焼こうともすぐ隣では雨滴が垂れていました


 四月 世界の中心 学校の工事は水の神様に赦される為
 海へと続く道を狭めていた街路樹をまずはじめに刈り取り
 三百年眠っていた忘れられた石は起こされてから一年を待たず再び眠りにつきます
 あなたの愛が終わる頃にわたしたちはまた醜くなってもう一度 記号に戻ろうとしている
 澱んだ水軒の川を下りてゆけばようすいの丘に僧侶の屍が飾られていて
 明るい雨に照り映えているのは静かな終末
 僧侶の屍が見る四月の海は光を滑らかに波へと移していって
 波が高くなればなるほど白い翼を持っているようでした
 太陽は 繭に隠れてはまた融け合う事を待ち望んでいます
 雨はやはり降り続け ……


    (あなたの 中 たえず疼いていた愛以外の衝動は世界に 安らぎをあたえていました
     夜の繁み 葉から垂れる水滴に舌を這わせて
     蠢かせる色情の結末を私は知っています
     月のない空の下で話しなさい 罪はわたしが負いましょう
     わたしが あなたを 赦します)


 ――あなたは 光と風に繋いだ糸を歓楽の鎖から断ち切って永遠へと引き摺って行くのです
 ――けれどわたしはあなたが世界になったとは思いません


 もう何度過ちを犯したか 月の出る時間になっても空は曇っていて星は一つもみえない
 あなたの声で夜が明けると
 ようすいの丘の上には新しい世界がひろがり
 かなたでは霞んだ水平線から薄い煙を立てながら近付いてくる船をみせる
 繭から不規則に放たれる白光
 海さえも白く 陽か月か私にはすでに判断のつかなくなった円光は鷲のように天へと上り
 たちまち消えてしまいました
 硝子に生命の火が宿る わたしは柔らかな乳房に憧れる
 神聖なものが処女の血のなかで生き続けるなら 私は神聖でなくてもかまわない
 生まれる前から知っていた空の飛び方
 世界は美しい
 残り火の薄ら明かりではなく 荒れ果てた街が遂げた
 閑寂と頽廃の先
 あなたは 星や雲ばかりに 目を奪われていました
 靄に隠れていようと 死骸が落ちてこようと あなたはその先にあるものから目を離さない
 降り続ける雨が世界を歪めてもあなたには別のものへと移る予兆がありませんでした
 朧気な山々を裂いて聳える朱の塔 深々とおおいかぶさる雷鳴の背中を撫で 儚さは蘇る
 黒雲であろうと繭であろうと 或いは残りなく晴れ渡った晴天であっても
 光がとめどなく洩れているのは祝福と同時に怒りなのです それは空間の歪み
 清らかな日に人々は身を委ねます 忘却を齎す言葉の代わり
 指に絡ませた枝を比類ない奇蹟と
 呼んでもいい


自由詩 ようすいの丘 Copyright e.mei 2009-07-17 23:57:18
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