真夜中の魚
e.mei



通りをまっすぐ行ったところに置かれた忘れ物よりもむこう
右へ右へと使われなくなった線路を歩いていくと役目を終えて眠りについた人形がいます
そこには電車と同じで動かなくなった時にだけ優しくされ
ふたたび誰からも忘れられてしまった人形たちの墓があります


運命でしょうか
神様のしわざでしょうか
雨のおおい季節です
台風におそわれます
からだの震える夜に冷たくなるのはゆびだけではなくて
ひとみもです


――ほら
赤いマントに白い風船
忘れたあしでのけんけんぱ
眠る頃に目が覚める
夢はたべられ野原に散らばる
海から手が伸び世界を引き込む
光は廻って始めに還った――


「私が星に指をつけます
 あのトンネルを抜けると火がひろがり 空を見上げると星がまたひとつふえました
 おおきな星をめじるしにして明日へとつなげましょう
 ほら ごらんなさい
 雨のやまない世界では椅子はすぐに腐ってしまいます
 なおそうとしてはいけません
 我々人形と同じでまた同じ事の繰り返しになりますから」


「夢というコトバが好きです
 未来にはないものですか?
 私たちはふたりの船でした
 そこに小鳥があらわれて彼の足を食べてしまったのです」


「それは不快ではありません
 いえ それをしあわせとよぶべきなのかもしれませんね
 鳥が飛んでいった時
 私は水になりました」


(――ああ
 波が夢をのみこんだ
 ベルの響かない夜は珍しい
 瞳の色がかわり 空気が白くなりました 光がおぶさります
 ながされる あいされる うまれゆく いきている
 あいしてる――)


それは海のにおい 彼のにおいです 魚のにおいでしょうか
子供が石をけっていると墓にあたりました それは過去です
線路は草でもうみえません
鳥が小さな声でないています
それをきいてしまうと
一日がまた始まります
真夜中に泳ぐ魚を見失う頃に
永い一日が また


自由詩 真夜中の魚 Copyright e.mei 2009-07-16 19:18:13
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