幸福島の話
あおば

                090710


幸福と叫んだら
幸福になった
そうだ
幸福だ
福だ!
福だ!
幸せを忘れた狸の群れが
子狸を探して旅に出る
物語はそのようにして終わりを告げ
幸せ者たちは
しずかな眠りにつく
いつまでも寝返りを打っているのは
物語の作者だけなのを
中天の月は哀れむように
青い光を一層強めて覗き込む

擬人法に長けた侍が
戸口で合図をして
一斉になだれ込み
作者を芋刺しにする
その悲鳴はどこにも届かない
一瞬の早業であった
今夜はそれでおしまい
子狸たちの勉強会は
夜明けにはお終いとなり
子供たちに姿を変えて
小学校に潜り込む
勉強をしたり
猫をからかったりしているうちに
学校は終わる
幸福と叫んだら
前から2番目の子が
後ろを向いた
人間の子供たちは
こんな手にはもう引っかからず
大人になるまでには幸福の入手法を学び
次は不幸せの番だと
懸命になって幸福を追い出して
いま、大海に漂っている小舟のように
不安定に揺れて
不幸せを楽しんでいるかのようだ
月は呆れてなにも言えなくなった
それだから
このごろの月は
無人の様子を見せている


自由詩 幸福島の話 Copyright あおば 2009-07-10 03:55:37縦
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