雨なんて降らないから
小原あき

この不景気で
「ありがとう」は
あまり回ってこないから
大事に大事に抱え込んでいた


街中の
誰もがそうやっていたら
いつしか
「ありがとう」は
街から消えてしまった


本当は消えてはいないのだけれど
消えたみたいに
自分以外の「ありがとう」を
見ることがなくなった


そうなると
より一層人々は
「ありがとう」を抱え込んだ


誰からももらえないのなら
今ある自分の
「ありがとう」だけは
大事に大事に保管しておこう


そうすると
自分しか
見えなくなって


誰も信じられなくなって


最近、夫の「ありがとう」を見ていない
母の「ありがとう」も
親友の「ありがとう」も


あれだけ好きだったみんなを
信じられないなんて
悲しい、と
ただ、
ひたすらに


泣いていたら


涙で
持っていた自分の
「ありがとう」が
全部、溶けてしまった


ご飯を食べても
キスをしても
道を譲られても


何がありがたいのか
わからなくなってしまって


ただ、眠る前に
「ありがとう」の雨が降ってくる
夢を見られるように
祈るだけ


自分の「ありがとう」を失くして
誰にもあげられないわたしには
雨なんて降らないから













自由詩 雨なんて降らないから Copyright 小原あき 2009-07-01 12:32:30
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