若原光彦ではありません
若原光彦

 1

この話は
映像も感情も引き出しはしなくて
もしそうなってしまったなら
この話はなかったことにする

 2

あなたは
私達と呼ばれることを拒むので
私達ではない
私は
あなた方と呼ばれることを拒むので
あなた方ではない

ここには
私達も
あなた方も居ない

ここには誰も居ない

 3

言葉を守るには
その言葉を使わなければいい

私は今
この言葉らを殺していくところだ

 4

あなたが
何かを求めてここに来たのなら
あなたは
ここには最後に来るべきだった
あなたが
もし今最後なら
あなたは
ここにしか来る場所はなかった

私は
最初から最後なので
私のいるべき場所にいる

 5

あなたがここにいるとき
ここ以外の場所に
あなたはいない
あなたがここにいないとき
あなたは
ここ以外のどんな場所にも存在できた

あなた方は
ここに
あなた方を連れてくるべきではなかった

私は
私を逃がしてきている
ここ以外の全ての場所に
この話をしていない私がいる

 6

私達は
誰もが私なので
私は私達のなかで
私を保つことができない
あなた方は
あなた方でひとつなので
あなたを保つ必要がない
むしろあなたがいないことを
そうあなたあなただ
あなただよと
呼ばれないことに満足している
あなた方は
あなた方のままで居続ける幸福を
守ろうとしている

 7

どこかにいる私は
夢を見ている
私がどんな夢を見ているのか
それはあなた方にもこの話にも関係がない

関係がない
という事実のみが
この話に関わる

 8

この話には
終わりも始まりもない
あってはならないが
もしそうなってしまった時は
消えてしまったあなたと
生まれてしまったあなた方と
生まれてはいけなかった私達と
ここにはいない私へ
繰り返されるものとする

 9

この話を理解するには
この話を知らなければいい
今ここで
私だけが
この話を聞く立場にない


自由詩 若原光彦ではありません Copyright 若原光彦 2009-06-18 21:20:01縦
notebook Home 戻る