ヴィオロンの滑走
aidanico


――一寸お暇頂きますわ、また今度いらして下さい。…あなたがどんだけ別嬪でいらしたかって?そんなら昭和に戻ればいいわ。

こんこん!まあだだよ。ごんごん!まあだだよ!がんがん!
ああ誰もいない。

指の先から、
ヴィオロンの伝染べえろべろ、耳に祈願して狐がくしゃみ、
…爪噛み
ゆるりらゆるりらぼろぼろと、歯が落ちる、歯が落ちる、歯が落ちる。
三千世界に降下した・昨日の朝

鸚鵡を鳥篭から放った
裸足の少女は駆けながら去って、
ふるえながら嗤う

――ようよう西まで入られましたなあ。
――いいえ、私の向かうのは鶴の皿です。
  ひゃくえんいろのにせんまん。

――缶詰の膨らむ頃ですなあ。
――お宮には綱吉様のお籠の参られました。…いいえ私の見たのは犬のほうです。なにやら奇怪な白蔵子がしきりに鳳車の傍で声を低くしてブツブツと独り言のように、「天女の怒髪を見たことがあるか」と笠木のほうを見て公方様に仰るので、隣の猿が何やら頭をぽりぽりと掻いて、見兼ねた坊主が禿げ頭をぽかぽかと弓束で叩いておりました。遠くでは稚児髷が針太鼓を忙しく打つのです。奥では三味線の撥が飛んで…

あーあ。日めくりが飛んじゃった、

――池の錦はもう浮かびましたか。
――いいえ、弱法師の高慢の中です。兎我野で切らず売りが鉄格子、

シノワーズの幸福はまだ遠い、
いちねんさきのしあさって。  



自由詩 ヴィオロンの滑走 Copyright aidanico 2009-06-17 22:40:51
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