一人部屋
灯兎

君が指先に残した温度が
痛みのない傷となって
つま先までかけ巡るあいだに
僕はカップにへばりついたコーヒーの粉みたいな
君の思いを辿る夢を見た

逢いたいと呟いたところで
有限の時間の中に少し居座っただけの僕は
春が夏に部屋を明け渡すのと同じ軽やかさで
君の記憶から消えているのだろう
そうであってほしいと
そうあるべきなのだと
思う距離を
憧憬師のステップで歩いていた

そういうものが全部合わさって
生きることの重さをなしているのならば
それほど悪いものではないのかもしれない

通りをひとつ隔てた公園の
滑り台に座って
ふたつ並んだ月をながめていた君が
その重さに足を取られて
頭から落ちていくのを
止められずに
僕はただ泣いていたのだけれど

広いベッドの隅まで朝は明けなくて
孤独の痛みを知ってしまって
数えきれない罪を数えるという罰を受けたのは
確かにまだ髪の短かった僕だから
償いは永遠と分かたれるのでしょうか


自由詩 一人部屋 Copyright 灯兎 2009-06-08 01:37:23
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