フィクション
夏嶋 真子





6月4日AM0時05分

玄関の鍵をあけ、
わたしを窮屈な女に閉じこめている
ストッキングを脱ぐときが楽園。
爪をひっかけて伝線、
1回500円の過ちにイライラする。

シャワーを浴びるのも、
コンビニ弁当に手をつけるのも、何もかもが面倒。
心臓が全自動なことに安心する。

ベットに身を投げ出す。
手足がマントルに沈みこんで、シタイを夢見る。
(もう、このまま起き上がりたくない。)
甘えきった倦怠感に胸焼け。

眠りが瞼をなでる瞬間、
体中の意志をふりしぼる。


「メイクだけは落とそう。」





6月7日AM2時17分

吐き気がひどい。
めまいの渦は洗濯機よりもうるさい。
薬の副作用なのか、
血の匂いのせいなのかわからない。

内臓も脳みそも裏返しになって外気を吸い
ひどくおどけている。

「女らしく」
「女として」
「女らしいね」

女を活用し続けて 立派な女になりました。
(それで、ここどこなの?)

子宮の真ん中あたりが気が狂ったように叫ぶ。

「神様、生をあきらめることは、ぜったいにしません。
  たけど今この瞬間、女から逃れたいのです。」




6月14日PM3時36分

ふいに彼がたずねてくる。

裸のまま寄りそって、
延々と梶井基次郎を語る彼の
腕枕が心地よくてフィクションの中にいる。

急に思いついて服も羽織らずに
冷蔵庫からオレンジを取り出し

「時限爆弾をどうぞ。」

と女の上目づかいで彼に手渡す。

彼はわたしをいつも正しく理解する。
部屋中の缶を集めて高く高く積み上げ

「これは太陽だよ。」

と言って、塔のてっぺんにオレンジを飾る。
ずっしりとした性の重みをバランスで逃しながら
不安定なわたし達の塔は完成した。

(太陽を沈ませない。)
衝動的にオレンジをつかむ。
爪をたてて力いっぱい握る。
わたしの体の一部が太陽の内部にめりこむ。

「急にどうしたの?」
焼け爛れたわたしの手を
彼が優しくなめて綺麗にする。

(太陽も100億年の時限爆弾なの。)

そう気づいて
ただ悲しかった。




6月15日 AM4時02分

カーテンの隙間からは
青い光の束が差しこんでいる。

もうすぐ太陽が昇る。
新しい太陽が。

私はそれを眺めなくても大丈夫。
私はそれを持っているはずだから。



再び眠りに落ちながら




一つ決心をした。






携帯写真+詩 フィクション Copyright 夏嶋 真子 2009-06-03 18:08:01
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