初夏のメルヘン
銀猫


晴れた日の自転車は
ちりちりと
陽射しが痛くて
風を切ると
明るいシャツに羽虫のシミがぽつり
白や黄色の
果実の予感を湛えた花は
土埃の上で
清しく開き
匂いを放つでもなく
ただじっと
ちからを溜めて
夏に向かう
そういう季節のめぐりに
きみは周到に隠れて
乾いた洗濯物の感触や
ありふれたいのちのやわらかさで
わたしを
夏に運んで行く
それはおそらく
少しも珍しくない光景で
とりとめもなく過ぎ去る、
風に似た一瞬
(日向の焦げくささ)
(海岸通りの干からびた海草の匂い)
きみの匂いは
もっと太陽に近かった




自由詩 初夏のメルヘン Copyright 銀猫 2009-05-27 12:47:41
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