Shaman's Love Song 1
佐々宝砂

南西からの風が荒れて
夏は終わりかけているらしい
それでも温度は32度あるし
湿度ときたら80%を越えようとしているし
気圧計はどんどん下がる一方で

そのくせ雨はちょっとしか降ってなくて
意外に薄い雲を透かして月が見えて
ニュースをみるまでもなく
台風が近づいてきてるのは知ってる

もうちょっと
気楽に考えてみよう

月が見えるからには
台風が来ようとも
星だって消えてはいないんだろうきっと
私が星を信じていられる限りきっと

忙しさにまぎれてとりわすれた畑のゴーヤーが
すっかりオレンジに熟れて
甘い南の匂いをさせている

南西からの暴風が
こんなにもなつかしいのは
私が南の生まれだから
ではないと思う
私が北の生まれだから
ということももちろんない

湿度はいよいよ80%を越えて
不快指数はうなぎのぼり

裸足で
裸で
雨に打たれて
踊らなきゃならないと思うのだけど
だれかわかんないだれかさんがそう命ずるのだけど
軽犯罪で捕まるのはいやだから
薄くて長いタンクトップ一枚はおって
外に出て
雨に打たれて
でたらめに喋りながら
でたらめに踊りながら

南西の風に乗って
きてください
南西の風にのせて
連れて行ってください

祈る相手がわからない
星が見えない
月はうすぼんやりとみえているのだけれど
あの呼び声は今も私の脳裏にひびいているのだけれど

呼ぶのはだれ
ここまで来いと命ずるのはだれ
私を自由にしてください
私はあなたの名を呼び得ません

もうちょっと
気楽に考えてみよう

と思ってはみるのだけど
あの呼び声にこたえないではいられない

ほら
オレンジ色のゴーヤーがはじけて
真っ赤な実がとろりと落ちる
私 たぶん 死にかけている


自由詩 Shaman's Love Song 1 Copyright 佐々宝砂 2004-08-31 03:59:17
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