春のおわりに
灯兎
苔むした停車場に蝶がそっと下りてきて
星のあいだからこぼれた風に揺れました
右肩はあいかわらずからっぽだけれど
線路の向こうにはあなたがいるのだから
許しにいきましょう
うそつきでやさしかった
桜木のしたのあなたに
もう一度くちづけをしたら
僕はきっとあなたを許します
あなたの作りあげた世界に
今も生きている僕には
くちづけをしてくれるものなどないと
そう思っていたけれど
ふっと右肩にとまった蝶にくちづけをしたら
むこうも喜んでくれたようです
なにもできない
どこにもいけない
だれにもなれない
なにかをもてない
そう思っていた僕だけれど
こんなたおやかな痛みを唇に感じるなら
また僕はあなたを愛せるでしょう
こんな何もない世界ではなく
自由詩
春のおわりに
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灯兎
2009-05-12 02:13:28
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