「 猫ノ薬 」 
服部 剛

誰もがきっと探してる 
心の穴を埋める 
たった一粒の薬を 

誰もがきっと求めてる 
この世の果ての薬局にいる 
あの不思議な薬剤師を 

群衆に紛れた君が 
ビル風に飛ばされそうな心を 
(コートの内から漏れそうな子猫の鳴声を) 
抱き締めながら 
傾いた姿勢で歩いているのを 
時折僕は 
街の何処かで思い出す 
(街中の隅々から無数に漏れる子猫の鳴声を) 

僕はあの不思議な薬剤師ではないけれど 
遥かな昔、一度だけ 
遠い旅先の砂丘にぽつんと建つ 
古びた小屋の薬局に行ったことがある 

あおい眼をした薬剤師は 
僕の来るのを 
ずっと待っていたかのように 
黙って瓶を、手渡した。 

(「猫ノ薬」と 
( 瓶のラベルに描かれた 
( 碧い眼の黒猫が 
( 口を開いて、鳴いていた

僕は棚の引き出しの奥に
ずっとしまっていた 
薬の瓶の蓋を開け 
その中の一粒を 
箱に入れて 
今日、君に贈ろう。 

その透き通った 
一粒の薬を 
飲む時 
君は自らを充たしてゆく 

これから語り始める、君自身の台詞。 
これから演じる、君自身の役。   
暗がりの、照明灯に照らされて 
日々の舞台に凛と立つ  
詩人は孤高の唄を、呟くだろう 








自由詩 「 猫ノ薬 」  Copyright 服部 剛 2009-05-09 20:57:16縦
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