かわいいやつら
佐々宝砂

背が高いとは限らなかったよ
ちいさいやつもいた

まあちいさいのもでかいのもばかだった
さわらなきゃいいのに火にさわるのはやつらだった
火傷したくなけりゃ
火からすこしだけ離れていたらすむのに
それだけでいいのに
やつらは火にさわろうとするばかだった

あたしがちいさいころは
まだすこしだけやつらがいたよ
たいていはすっかりしわんでいて
骨格だけはいいものだから
変に曲がった腰と膝が
やつらの年寄りくささを強調していた
骨っぽい頬に生える髭はしろくまだらで
あたしは動物園の珍獣をみるみたいに
やつらをみたものだった

やつらはとにかく役立たなかった
酒をこぼしたら拭けばいいのに
なぜこぼしたか
こぼした酒の価値はあるかないか
そんなことについて
論議しだすやつらだった

愛するものに出会ったら
まず傷つけようとした
突破しようとした
それが愛だと信じていた
それがやつらだった

それでも
夜明け近い空に星が消えてゆこうとするとき
その星に手を伸ばすのは
あたしたちではなくて
いつもやつらで

まああたしも星に手を伸ばすくらいのことはしたのだけれど

それでも
あたしはやつらのかわりにならない
かわりになる気もしない
やつらはきわめて愛すべきやつらで
かわいかった
あたしよりはるかに
かわいかった

もういないけど
もうどこにもいないんだけど
あたしたちのアダムは
それでも
あたしたちは生きる
かわいいやつらがもう
この世界のどこにもいないとしても


自由詩 かわいいやつら Copyright 佐々宝砂 2009-05-09 04:53:40
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