くじら雲
1486 106

芝生の布団に寝転がって
五月晴れの空を見上げていたら
公園一帯を包み込む大きな影
くじら雲が町を横切った



頬をくすぐる風が心地よくて
いつの間にかうとうとしてら
くじら雲が近付いてきて
背中に乗せてあげるよと言った

やわらかな感触の背中にまたがって
透き通った青空を掻き分けて進んだ
見慣れたマンションや裏山も
上から眺めると全然違って見えるんだ

学校の屋上ではヒデカズ君が
おへそを出しながら昼寝していた
大声で呼び掛けたけど聞こえないみたいだ
明日の朝一番に自慢してやろう

あまりにも低空で泳いでいたから
デパートのアドバルーンにかすって
広告の文字が不自然に揺れていた
くじら雲と一緒になって大笑いした

知らない町まで行ってみたいな
太陽に触ってみたいな
くじら雲は大きく返事をすると
潮を吹き出して虹を作ってくれた

くじら雲はそれからたくさんの遊びを教えてくれた
雲細工やくじら泳ぎのコツ
歌ってくれた潮騒の子守歌は
お母さんみたいに温しい音色だった

くじら雲くれた壊れないシャボン玉を
地上のみんなに向かって吹いた
お隣さんや学校の先生にも
届くように力を込めて強く強く

もしかしたら話しても信じてもらえないかな
だけど僕はずっと友達でいるからね
くじら雲は照れ臭そうに笑うと
勢い良く尾ひれをふってくれた

ありがとう今日の事は大人になっても絶対に忘れないからね



遊び疲れて眠たくなった
目が覚めると僕は元の公園にいた
すれ違った散歩途中の犬は
壊れないシャボン玉をくわえていた
くじら雲が頭上を横切った


自由詩 くじら雲 Copyright 1486 106 2009-05-06 23:01:02
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