脱脂綿
杠いうれ

脱脂綿を部屋中に拡げてわたしのベッド
塵にむせながら脚をばたつかせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿

脱脂綿に染みるバルサミコ酢
大海原に放流されたドライフィグ

脱脂綿に腹の内を綴るインクが滲む
ひっかかりながらペンを走らせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿

脱脂綿は毛羽立ち炎に似て
さながら焼身自殺だ 聞こゆうぐいすの春

脱脂綿に舌を這わせてそんなふりをする
そんなふりをしながら漂白されゆくわたしをやさしくくるむ脱脂綿

アルコールワッテを作ったことがありますか
アンコールワットではありません
ここに軍服は似つかわしくない
アルコールワッテはしみるから不要
アンコールワットの蘭を見たことがありますか
湿度の無い処に蘭はからっきし咲かぬのだし
ここにきっと花は咲かぬだろう



塵にむせながら脚をばたつかせるわたしをやさしくくるむ脱脂綿
隙間から春の陽差し塵がまたたいて



自由詩 脱脂綿 Copyright 杠いうれ 2009-04-28 15:49:46
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