めでたし
恋月 ぴの




ちゃぶ台をひっくり返す
それって池田屋階段落ちのカタストロフィなのか
それとも寺内貫太郎の癇癪玉が破裂したのに似ているだけなのか
亡くなった父親がちゃぶ台をひっくり返したのに一度だけ遭遇したことがある

梅雨どきの部屋内で二つ違いの弟と悪ふざけしていて
加減を知らぬ放物線は私の頭上を飛び越え
慌てる手のひらをすり抜けると食事してた父親の眼前に落ちた
あぐらをかいた肩の高さよりもマジックボールが跳ねたのを合図に
がちゃーんと食器の当りあう音がしたと思ったら

目玉焼き乗せたお皿が目の前を飛んでいって
端からそんな筋書きだったのか見事畳の上に軟着陸した

まさにフライングソーサー…そんな感じだった







なぜかメンバーとは呼ばれずに
容疑者と名指しされ

いつのまにか「さん」付けに変わっていた若気の至り








あの目玉焼きを乗せた白いお皿のようにひととひとの間には伝えようとして伝わらなかった思いとかがその瞬間の姿のままで横たわっているのかな

それとも早朝の国道で見かける猫とかの死骸のように行き交うひとびとに踏みつけられぐちゃぐちゃになっていたりして

思うって虚しいことなんだよね

それでも「めでたし」と結ぶのはハッピーエンドを欲してやまぬからで
こうして生きざるを得ない義務感の鬱陶しさを覚えながらも

ほっかほかの白いご飯に箸をつける間も無く
「ざけんなよ!」
心のなかで思いっきりちゃぶ台なんかひっくり返してみた


めでたし。





自由詩 めでたし Copyright 恋月 ぴの 2009-04-27 21:03:39縦
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