おもい出す
かんな


母へと語られる
おもいは
いつもことば少なで

ずいぶんと幼い頃
学校へ行きたがらなかったわたしを
ぴしゃりとしかりつけた
あなたの手のひら
たった一度
手を上げたのはその一度
いまでも
その理由を
ふとあなたに
そしてわたしに
問うことがあるけれど

反抗期
そんなふうに
今なら言える
部屋にこもりがちなわたしを呼んで
台所でしかりつける
かと思ったら
こたつで寝るのは体に悪いからやめなさい
ただそういって
わたしの体を心配する
あなたのまなざしは
ただまっすぐで

半年間
学校にいかずにパソコンに向かっていた
朝起きると寝るまでずっと
何も言わない
わたしのことばを
あなたは拾い上げてくれていたんだろうか
同じように
何も言わない
ずっとパソコンじゃ体に悪いから
たまには散歩に行きなさい
ただそれだけいって
横を通り過ぎるあなたの足音に
なんだかとても安心して

二十歳で
やっと高校を卒業して
ほんとうにたくさんの人のおかげね
感謝しないとね
そういうあなたのことばに
わたしは素直に
ありがとう
なんて言えないでいて
そういつも
あなたへと語るおもいはことば少なで

入院から二年
病床につくあなたに
かけることばに迷うと
いつもおもい出す
わたしが生きた長さの分だけ
見守って
どんなときでも言葉をかけてくれた

あなたのことばを
おもい出す



自由詩 おもい出す Copyright かんな 2009-04-25 05:26:33縦
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