彗星は氷塊なのだから
佐々宝砂
彗星は氷の塊だと教わりました
ゆんゆんと楽しげに
春風はすぎてゆきます
りんりんとさかしげに
春の日がおちてきます
春風は単に空気の移動なのですが
春の日は単に熱力の移動なのですが
彗星は氷の塊だと
おそわりました
静かに過ぎゆくものは
ただ時のみであって
おおかたのものは
大騒ぎしながら過ぎゆきます
ほら桜の影をごらんなさい
のたうつ二頭の生き物が
くっきりと姿を見せているのが
影の世界ではよくみえるはず
ああ目をとじてくださいどうか
そしてなにものにも耳を貸さないでください
なにひとつ感じないでください
わたしはあなたにくちづけを贈りますが
どうか感じないでください
わたしがあなたにしるしを残しうるのだと
そんな幻想をわたしが抱かずにすむように
明日もまた
わたしを適当にあしらってくださいどうか
春の日がさかしげに落ち
春風は楽しげに吹き
あなたはわたしを
自由詩
彗星は氷塊なのだから
Copyright
佐々宝砂
2009-04-17 04:56:41