午後の喫煙
佐々宝砂

三十はとうに越したが
精神年齢がそれほどいってるかは疑わしい
とにかく子どもは二人ほどいる
「ほど」の部分に何があったかは想像に任せる
下腹はよれたTシャツを膨らませ
ジーンズはさっき下の子がこぼしたアイスに汚れている

お盆まっただなかの遊園地は
当然ながら人でいっぱいで
仕事の方がラクだとしみじみうんざりしている
子どもとその母親は
クーラーの効いた土産物屋で何かを物色している
聞きたくもない演歌がガンガン聞こえる
連れてきたくもなかった自分の母親が
古ぼけた日傘の中で暑いわねえと繰り返す

サイダーか何かでべとべとするベンチに坐って
温もったスーパーマイルドのキャスターを
ジーンズのポケットから引っぱり出す
ちょっとでなくひしゃげている
どうにか一本取り出して
ぎらぎらする日ざしの下
熱くなった百円ライターで火を点ける
火がでかすぎて眉を焼きそうになる

軽すぎる煙を
すでに充分タールで冒された肺に吸い込む
深々と吸い込む
すべて憤懣やるかたないものを吸い込むつもりで吸い込む
涙など流せないまま吸い込む
隣のベンチのカップルが煙に顔をしかめるが
吸い込む権利があると信じて吸い込む
腹を減らした子どもがメシを食うように吸い込む


自由詩 午後の喫煙 Copyright 佐々宝砂 2004-08-26 17:15:07
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