桜の季節
灯兎

冬の残り香に酔いが回ってくると
忘れ雪にも花びらにも見えない
白い何かが降り積もってきて
そこら中を 冬とも春ともわからない
明るい何時かに染めていった

それはきっと 葬儀のつもりなのだろう
移ろう街に染まれない僕への 
彼女なりの弔い

せめて 君だけは春の色に染まってくれないだろうか
何かを忘れることができなくて 立ちつくす僕に
優しいフリだっていいから
これだって嘘なんだよ
そう言ってくれないだろうか

君の白い指先が 僕の赤い頬に触れて
あの時は 生きているように思えた
けっきょくは ただ君だけを見ていなかったのに

風に吹かれて花びらが高くのぼるように
海に流されて流木が漂白されるように

せめて 君だけは 春色に染まってくれないだろうか

さくら さくら ロンドのように
さくら さくら 巡り忘れた僕のふるさとを
さくら さくら 咲かせておくれ


自由詩 桜の季節 Copyright 灯兎 2009-04-14 04:26:08
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