ハラスメント行為の認定要件と権力関係
山田せばすちゃん

性的なものを含めてそこにハラスメント(嫌がらせ)と認定されるべき事態があったのかどうかを認定するためには、ハラスメントの加害者−被害者の間に支配ー被支配の権力関係があったか否かは重要な争点となりうる。
それはすなわち、被害を受けた側が自由意志で被害の現場を立ち去ることができたか否かが問われているのだ。言うまでもなく上司と部下、教師と生徒など、被害者が自由意志でその関係を破棄できない、もしくは破棄することによって被害者が著しい不利益を被ることが容易に想起し得る場合、嫌がらせ行為は存在したと認定される。
一方、街頭で「お茶飲みませんか?」もしくは更に大胆に「彼女、ホテル行こうよ」と声をかけられた場合、それが純然たる声かけのみであり、付きまといや進路を妨害する等の被害者側の自由意志を阻害する行為が存在しなかった場合、それらの行為が性的ハラスメントと認定される可能性はきわめて低い。なんとならば、声をかけられた側は自由意志を持ってその場を離れることが可能だからだ。
認定の基準として問われているものは被害者側の自由意志でその場を離れることができたか否かであり、認定の基準を敷衍すれば一概に権力関係のみならず、学校の生徒同士、あるいは職場の同僚など、同じ組織に属しており、その組織を離れることで被害者側が著しい不利益を被ることが容易に想起できる場合にもハラスメントは認定されうることは間違いない。
さて現代詩フォーラムのサイト内、もしくは各種の詩のイベントでかかる嫌がらせ行為は認定されうるだろうか?
残念ながらその可能性は低いといわざるを得ない。
サイト内での嫌がらせは被害者にサイトを閲覧しない自由を阻害しないし、詩のイベントが、その場を立ち去ることで被害者が著しい不利益を被ると客観的に認定されることはおそらくありえないからだ。

とまあ、ここまで書いてきたわけだが、ならば一体ハラスメント行為の存非を「認定」する主体は誰なのか、について俺はここまで一切言及しては来なかった。
実はこの論考における「認定」の主体は司法であり、ここにおけるハラスメント行為の認定とは不法行為として民事上の損害賠償の対象になりうるか否かの認定なのだ。
もちろん、強姦罪、准強姦罪、強制わいせつ罪、公然わいせつ罪、その他として暴行罪、脅迫罪、傷害罪など刑法上の犯罪を構成する要件が揃っている場合は、加害者を刑事裁判に問えるのはもちろんのこと、不法行為として民事上の損害賠償請求は可能であることは言うまでもない。そこから零れ落ちていくハラスメント行為からいかに被害者を救済するか、が問われている現代において、司法の認定の基準は自由意志による離脱の可否性を対置しているのだ。
しかしながらこの基準は、自由意志による離脱の阻害までは救済の対象としているが、被害者の権利(たとえるならば現代詩フォーラムを閲覧する権利、詩のイベントに出かける権利)の侵害に関しては適用されえない。

不法行為としての認定基準を超えてハラスメント行為は存在する。


散文(批評随筆小説等) ハラスメント行為の認定要件と権力関係 Copyright 山田せばすちゃん 2009-04-10 21:11:05
notebook Home 戻る  過去 未来