そらのかえるばしょ
コーリャ
※
いままで
だれもみたことがない
世界地図をえがきながら
いつまでも未着の手紙
のことをかんがえる
そして
伝送されつづけるテレパシーのことをかんがえる
どちらも
回帰線あたりで
かもめ になってしまうんだ
たぶん
※
ひとつひとつの記憶が
偏光しながら
ばしゃらん
ばしゃらん
とひびかせる
パレードだ
海に
むかって行進する
そのすがたは
うみどりの群れみたいだ
北半球には
かえることのない
うみどりたち
※
「うみに涙をみせちゃいけない!」
という砂浜にささった看板はさびていて
そんなのわかってるとおもった
「うみをキレイに」
よけいなおせわです
※
夜に海浜は
砂時計になってしまう
そして
さんばしに立った
ろうじんは
ハーモニカを
海底にむけて
吹奏した
メロディーは
水中を透徹して
さかなはにんぎょになれる気さえした
しかし
百回目の♯のとき
反響してきた一回目の♭のせいで
ろうじんはハーモニカをてばなし
いっきに洪水してしまった
ろうじんは 違反したんだ
砂時計がクルリとひっくりかえされる
そのつぎの朝の浜風は
すこし
はずかしげで
塩気がつよかった
※
海辺のJettyのペールブルー
酸素がたらないペールブルー
町で銀色のオープンカーが空転し
風見鶏や風車
どころか
案山子
まで回転して
みずからを気化し
街人たちを匿名にした
みんながみんな違反者だったから
名前や身体をうしなって
シルエットが交錯し跳躍する
電燈のなかで
街は
音のないサーカスだった
※
南半球の表面張力をためす
ギャンブルのために
夕日はおちていく
いみもなく
にぎった
砂は
どうしても
零落していって
ならばいっそ
水平線に
そうっと
こぼす
すると
燃える海が
越境して
空ににじみでていく
※
うみが
そらに
かえってゆく
かおのないきみは
あそこでまっている
だから
「うみをキレイに」しなくちゃいけない
そんなのわかっているけれど
宵闇はむしろ街を
加速させ
もう
音速にちかいくらいで
いろんなものがしなやかに
記憶を追い越す
背後
から
疾走してきた
こどもの影が
ぼくの
背中に
衝突して
転ぶ
痛みをこらえているんだろう
ひとみは閃いているから
でもここはうみなので
泣くこともままならないのだ
※
いっそのことぼくが光点になり
自転を
とめてしまうのはどうだろうか
看板を
ひっこぬき
字面を
かきなおす
「うみに涙をみせちゃいけない!」
「うみに戻■■■ちゃいけない!」
「うみに
戻■■■ちゃいけない!」
看板は
うみにながそう
※
うみは看板のかえるばしょで
うみはそらにかえる
それなら
そらは どこに いけるのだろう
経度から
経度へと
そして経度へと
※
こどもの影はもうなかった
かわりに
一番星にむかって
かもめが一羽
とんだ