psyche Ⅳ〜Ⅵ
夏嶋 真子




? 蝶

シ/モクレンの一秒は
蝶の魂と同じ

奇妙に歪んだ美醜の契りが
爪先で蠢いて翅にかわる


うす紫がゆっくりと溶け出し
バスタブの温度を下げる

浴室で眠る蝶の夢は
完全に対称な生と死の同調

裸体の熱は無受精卵を
春の空へ産み落とし


飛翔から生まれた風が
触覚をたたく曖昧さで
はるか遠くの春雷を鳴らす



?母

夢の外はうららかに流れる


紫木蓮の蕾は
この詩の全てを包んで母になり


ふたたび揺りかごを得た蝶は 
春の夢を見る



不完全な肉体が
悲愴と失望に絡まり
樹液のまにまに漂う


胎児になった蝶は


この欠落が


命だと知る




あらゆる感情を
空にはなち
母の片隅に果てた






? psyche


夢の外は静止している




シ/モクレンのうす紫が空に溶け出し
蝶のへその緒に結ばれると

翅は外に向かって透けてゆき
脈打ち始める




沈黙する春は
枝に止まったまま
その産声を待つ



再生が押される



雑音の隙間から聞こえるのは




胎動



願い










携帯写真+詩 psyche Ⅳ〜Ⅵ Copyright 夏嶋 真子 2009-03-24 02:14:01
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