春、摘まれたとして
嘉村奈緒

 
軽やかな装いの男が
日がな一日長椅子に座っている
うららかに、年老いた象の目回りに皺が刻まれ
陽気に溶ける大袈裟な風船どもを
バービーたちが追いかける
とりわけ足の速いバービーが
長椅子の男の
ベルトに慎ましく結わかれた種子をつつくたびに
男はほんの少しずつ死んでゆく


急速に色めきたつバービーたちを
母親はあわてふためきつつも正しい手順で世話をする
そうやって浮かれて、総立ちして
園内にこれでもかという程度の春が君臨するときには
象はステップを覚えているだろうから
うやうやしくワルツすることだって
きっともっとたやすい





 


自由詩 春、摘まれたとして Copyright 嘉村奈緒 2009-03-23 21:28:59縦
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