「no lapel badge or Ellie shows」
紫音

手を広げ縦に横に半径1メートルに満たない円を描く
そうして切り取った球状の世界に籠る
眺める世界は全てが偽りでありながらディズニーランドほどには裏切らない
其処は全てが嘘だけれども 此処は絶妙なバランスと巧妙な地雷
故郷 名前 国籍 性別 IQ TOEIC
あらゆるものを階級に認識に用いながらそれが蜃気楼ほどにも確かではなく
頬を撫でる風も掌の体温を奪う電柱も感じるほどには確かではなく
ミッキーマウスの皮を被ったダンサーのように人の川に流される

知ったわけではないが きっと今際の縁に立つ気分に似ている

銀座のディスプレイの中で着替え途中のマネキンが半裸で睨み
今日も一日視姦されなければならない身を哲学に語るとき
死んだはずのマルクスが東大の図書館にぼぅっと蘇える
どうやら資本主義が溶解しているらしいから共産主義の妖怪の時間なのかもしれない
欲しい物なんて無いのだけど何かを買わないと落ち着かないからカメラを買ってみた
手で囲った世界はすぐに消えてしまうからもう一度世界を切り取るために
切り取られた白縁の其れはもう二度と見ることも無いのだけれど
自分が誰か何かを考えるよりも余程輪郭を確かめさせてくれる
写るのは何も無い空であり誰もいない廃墟であり煩わしい生が無い
哀しくも素敵な数瞬の後にも無くなってしまうだろう世界

インク切れのプリンターがカタカタと音を奏でている

家族とか恋人とか友達とか諸々のアルバムに収められた肖像
その関係はポストモダンの蜘蛛糸に絡め取られていく
真っ赤な四角い其れは私が発する言葉という言葉を飲み込んで
気の効いたヤギが途中で食べてくれるから誰にも届かない
きっと生きているということがスーパーのチラシ裏に書いたメモ書き程度にどうでもよく
フリーダ・カーロと同じ程度にいい加減でどうしようもない
腐乱していく胸の奥でFrancfrancな心の入れ物はプランプラン千切れかけている
呼吸は腐臭を漂わせプシューコフーとダースベーダーのように音を立てて哀れまれ
マッチ売りの少女もきっとマッチなんて買って貰えないまま人知れず消える

明日は燃えるゴミの日だから可燃ゴミ集めなきゃ

なんてどうでもいいはずの毎日に繰り返し訪れるクダラナイ決め事を律儀に守る自分がなんだか可笑しい
生ゴミは燃えるから自分もまとめて出そうかなんてブルーマウンテンに憂鬱を乗せている
ここでは萌えないものは要らないらしいから きっと燃える自分はゴミなんだ
エコじゃなくてエゴだからレゴと一緒に燃やしてもらったら煤くらいは証になるかしら
証?そんなものは欲しくもないし残す必要もないはずなのに何故かそんな言葉が浮かぶ
誰かが見ているから?見て欲しいなんて頼んでいないのに?
捨てられるのは怖いから鉋で削るように自分を削いでいったらいつの間にか何も残っていなかった
出汁も出ないつまらない抜け殻 人という制服を被った空洞
そんな制服に襟章は不要だ
空ろで何も無い身に纏った人という形には

フリーダ
彼女は何がしたかったのだろう
トロツキーと不倫をして スターリンの肖像を飾って過ごすなんて

そしてエリー
何も無いからこそ求め 何も要らないからこそ拒み
虚ろに征服されて逝く心に 人の形を保つ制服を纏って
襟は破り捨て燃やしながら
花無き春に 再び世界に扼殺され その偽り故に終わることなく沈みながら
触れる手を解き 触れる手を抱き アンビバレンスに引き裂かれ
それでも世界を切り取る
その先に何があるとしても 何も無かったとしても


自由詩 「no lapel badge or Ellie shows」 Copyright 紫音 2009-02-13 23:14:19
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