噛みつく童話



白い歯がボロボロと抜け落ちていくので、笑いながらパカパカと
不安を吐き出していると、隠し事は良くない、と先生、みたいな
真珠貝に言われてしまって、その口にどうにかしてフタをしたい
と思うのだけれど、目を見て話すことができない、から手を出す
ことなんてできるはずもなく、直立不動で説教を聞くしかない。

やがて全ての歯が抜け落ちて、スースーと口の中にさわやかな風
が吹き始め、貝先生のお話が春の香りと共に喉に流れ込み、食道
をかけぬけ、胃の中を満たしてしまう。消化不良!と叫ぼうとす
るのだけれど、うまく発音ができないまま、言葉が奥のほうに染
みこんでいき、手遅れ!と最後にひとこと言われ説教が終わる。

後姿を見届けてから、猛烈な勢いで吐いた、それは海のように塩
辛く、ざらついた物語として口から溢れ出て行く。舌先に残った
塊が、とてつもなく不快、で、どうにかして噛み砕こうとするの
だけれど、スカスカと音を立てるばかりで、内側から噛み砕かれ
ていくのはぼくの方だということを、結局認めるしかなかった。



自由詩 噛みつく童話 Copyright  2009-02-06 23:42:32
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