美しいひと
銀猫

白梅も微睡む夜明けに
あなたしか呼ばない呼びかたの、
わたしの名前が
幾度も鼓膜を揺さぶる

それは
何処か黄昏色を、
かなしみの予感を引き寄せるようで
嗚咽が止まらず
あなた、との
始まりの記憶を手繰り寄せてみる


  そっと触れると
  その深くなった額の皺が
  川、という文字を描いて
  あなたの潔さや
  懐の深さで
  豊かな水の流れをつくっている
  薄くなるまで使ったてのひらには
  ささやかな歴史が
  花びらのように握られ
  しろい冬の匂いを放って
  あなたの安らぎを約束する


明日あなたが風になるとき
なみだはきっと不似合いだろう

こんなにも
美しいひとが
空に溶けるのだ
傍らで
風は子守唄を唄い続ける
語り継がれる血の
温もりを護るように



あなたが指差していた先には
幸福のかたちが見え隠れしている





     (二〇〇八年一月、友の愛するご家族の追悼のために)


自由詩 美しいひと Copyright 銀猫 2009-01-28 16:56:46縦
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